カンナビノイド受容体って何?作用秩序や効果を解説(パート2)

 前回に引き続き、カンナビノイド受容体について解説していきます。 【カンナビノイド受容体って何?作用秩序や効果を解説(パート1)】

【カンナビノイド受容体って何?作用秩序や効果を解説(パート2)】

⑴CB2受容体(カンナビノイド受容体タイプ2)

⑵CB2受容体活性とガン腫瘍の関わり

⑶CBDはどの受容体に結合する?

⑷その他の受容体

【②カンナビノイド受容体への作用による効果】

⑴CB2受容体(カンナビノイド受容体タイプ2)

CB2受容体活性と鎮痛作用の関わり

 1993年に発見された2番目のカンナビノイド受容体がCB2受容体です。CB2受容体は、主に末梢組織や免疫系細胞(※1)に多く存在しています。脳にも CB2受容体は存在していますが、CB1受容体に比べるとその数は少なく、シナプス後膜に発現すると言われています。

 CB1受容体は報酬系回路と呼ばれる神経系に深く関わっており、神経伝達物質の放出を調整することによって精神作用をもたらしますが、CB2受容体は免疫細胞に関係しているため精神作用をもたらしません。そこがCB1受容体との大きな違いです。

 痛みの感覚には神経系に関与しているCB1受容体がその調整を行いますが、CB2受容体にも疼痛調整の機能があると言われています。むしろ最近では、「精神作用をもたらすことなく痛みを緩和するCB2受容体」の研究が盛んに行われています。 実際に、選択的 CB2アゴニスト(作動薬)(※2)は有望な鎮痛作用を動物実験で示したとされています(※3)。

 CB2 受容体の活性化は肥満細胞からのヒスタミンやセロトニンの放出を抑制することで鎮痛作用を発揮します(※4)。セロトニンは幸せホルモンとして知られている一方で、炎症箇所の血管を拡張し、血流を増加させることで熱感覚や発赤が生じる物質とも考えられています。

 さらに、CB2受容体は皮膚を構成する細胞であるケラチノサイトに多く分布しています。CB2受容体アゴニストがこのケラチノサイトに働きかけることによって、内在性オピオイドであるb-エンドルフィンの分泌を促し、感覚神経終末のµ-オピオイド受容体に働きかけることで鎮痛作用を発揮します(※5)。

 以上が、CB2受容体が鎮痛作用を発揮する仕組みとなります。CB2受容体は末梢組織に多く存在していることから、主に炎症などの侵害受容性疼痛を制御すると考えられていますが、他の受容体との間接的な関わりによって神経因性疼痛、心因性疼痛にも効果を発揮するのではないかと考えられています。各受容体と鎮痛作用の関係は大変複雑であり、今後のさらなる研究発展が望まれます。

(※1)  B リンパ球やナチュラルキラー細胞(NK 細胞)

(※2) GW842166X 、LY-2828360

(※3) https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/52/9/52_850/_pdf

(※4) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jalliedhealthsci/9/2/9_112/_pdf

(※5)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jalliedhealthsci/9/2/9_112/_pdf

⑵CB2受容体活性とガン腫瘍の関わり

 CB2受容体が癌細胞の成長を抑制したり、悪性細胞の自殺(アポトーシス)を引き起こしたりするメカニズムは完全に解明されていません。しかし、いくつかの研究で、CB2受容体の活性化がサイトカインやマトリックスメタロプロテアーゼ(タンパク質分解酵素MMP-7)の産生を抑制し、癌細胞の成長や転移に関わるだけでなく、アポトーシスを引き起こすとされることが明らかになっています。

 サイトカインとは、主に免疫細胞から分泌されるタンパク質で、細胞間の情報伝達の役割を担っています。がんや病原体などの異物が免疫細胞により認識されると、様々な炎症性サイトカインが放出されます(※6)。この炎症性サイトカインの放出は癌細胞の増殖につながってしまうことが知られています。

 CB2受容体の活性化はタンパク質分解酵素(MMP-7)の産生を抑制します。MMP はコラーゲンなどの細胞外マトリックス(細胞外基質)を分解してしまう働きがあるため、悪性のがん組織でがんの転移を促進すると考えられています。

 その他にも、CB2 受容体は血液のガンと言われているヒト白血病細胞に対して、アポトーシスを引き起こすことが明らかになっています(※7)。またCBDによる同受容体活性は、ヒト乳癌細胞、前立腺癌細胞、大腸癌細胞、胃腺癌細胞などの増殖抑制や肺への転移抑制効果を示しており、ヒト肺癌細胞にも効果が認められている(※8)。

(※6) インターロイキン類、インターフェロン類、腫瘍壊死因子類、ケモカインなど

(※7) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jalliedhealthsci/9/2/9_112/_pdf

(※8) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jalliedhealthsci/9/2/9_112/_pdf

⑶CBDはどの受容体に結合する?

 実は、CBDはカンナビノイド受容体(CB1受容体、CB2受容体)と直接結合するわけではなく、他の受容体との結合によって間接的にカンナビノイド受容体を活性化させ様々な効果を発揮します。一方で、THCはカンナビノイド受容体と直接結合することで活性化させると知られています。

セロトニン受容体との直接結合

 セロトニン受容体の活性は不安感、悪心と嘔吐の抑制、食欲、睡眠、痛みの認識、気分、性行動などに影響します。一般的に、セロトニンは幸せホルモンとして知られていますが、それはセロトニン分泌量の増加が興奮や恐怖感によって分泌されるドーパミンやノルアドレナリンを抑制させるからだと考えられています。

 CBDはセロトニン受容体5-HT1Aに直接結合し、抗不安作用をもたらします。また、嘔吐中枢のセロトニン5-HT3受容体にも結合することで、悪心と嘔吐の抑制作用をもたらします。このセロトニン受容体はGABAを分泌する神経細胞にも関係しており、不安を生み出す神経細胞の活性を抑えます。

アデノシンの取り込み阻害

 アデノシン受容体の活性は睡眠機能や抗炎症作用、細胞の保護、血管拡張などに影響します。アデノシンは代表的な睡眠物質の1つとして知られており、日中に筋肉細胞や脳細胞が活動することでアデノシンが体内に蓄積され、それが眠気を引き起こすと考えられています。CBDはアデノシンA2A 受容体に結合するアデノシンの細胞内取り込みを阻害することで、血中のアデノシン濃度を上昇させ、睡眠促進や抗炎症作用をもたらします。その他にも、アデノシンはカフェインに反応することでも知られており、睡眠や血管の拡張・収縮の調節を行っています。

カプサイシンTRPV1受容体

 TRPV1受容体は、カプサイシンによる辛みの反応や温度、化学物質による刺激に関係することが分かっていますが、詳細は明らかになっていないことが多いと言われています。現在のところ、疼痛や細胞内のカルシウム調整にも影響するのではないかと言われており、研究が進められています。細胞カルシウムの恒常性の乱れは活性酸素の産生の増加、小胞体ストレス、細胞死につながる可能性があると考えられています(※9)。実際に、CBD が TRPV1 受容体に作用して癌細胞にアポトーシスを引き起こすのは、細胞内へのカルシウム流入促進であることが明らかになっており(※10)、そのことが研究者の間でCBDによる抗癌作用への期待を高めています。

(※9) http://cannabis.kenkyuukai.jp/images/sys/information/20201231082927-58C5885446453B75C12C4A465A5131EAD5CCD250DE54E31E13C7353B115AC961.pdf

(※10) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jalliedhealthsci/9/2/9_112/_pdf

⑷その他の受容体

 CBDは上記の受容体以外にも、GPR55受容体の働きを阻害するものとして働きます。この受容体とCBDの関係はまだ不明な点が多いですが、現時点では、GPR55受容体の阻害や拮抗が抗けいれん作用・膵臓癌・骨粗しょう症などに関わると考えられています(※11)。また、CBDはアルツハイマー病と関連のあるPPARy受容体と結合することが分かっています。PPARy受容体の活性化はアルツハイマー病の原因と言われているアミロイドβペプチドの神経毒を抑えることがラットの実験で明らかになっています。さらに、ヒトにおいてもCBD がアミロイドβペプチドの前駆体であるアミロイド前駆蛋白(APP) の産生自体を抑制することが分かっています(※12)。

 以上のように、CBDはCB1やCB2受容体に直接結合するものではなく、むしろ他の受容体と密接に関わっています。まだまだ研究が足りない部分は多いですが、CBDが持つこれらのポジティブな報告は、今後たくさんの患者さんを救う植物性由来の成分として期待できるものと私は感じています。

(※11) https://www.shinryo-to-shinyaku.com/db/pdf/sin_0058_07_0529.pdf(※12) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jalliedhealthsci/9/2/9_112/_pdf